恐怖の泉

実話系・怖い話「ハイヒールの足音」

これは私が一人暮らしをしていた学生時代の話です。

何部屋かが学生寮として使われていた古いアパートに、私は住んでいました。
私は一階の部屋、同じ学科の友人も二階に住んでいました。

部屋はフローリング六畳一間という、よくある一人暮らし用の間取りでした。アパートのドアは全て緑色だったのが印象に残っています。
ですが唯一、友人が住むその部屋だけがリフォームしたばかりであり、フローリングではなく畳の和室になっていました。

最初友人は新しいその部屋にとても喜んで住んでいました。私も特に気にすることなく、その友人の部屋へ出入りして遊んでいました。

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しかしいつ頃からだったでしょうか。
明るくリーダーシップのあった快活な友人はあまり笑わなくなり、無口気味で暗い表情を浮かべることが多くなっていったのです。
そしてしきりに寮の部屋へ戻るのを嫌がるようになりました。

私は不思議に思い、友人に問いかけました。どうして家に帰りたくないのかと。
すると友人は不思議な夢の話をし始めました。

ある夜眠りにつくと夢をみたそうです。
どこか森のようなところを歩いており、行く先に扉があります。
何気なくその扉を開けると別の空間に繋がっており、夢はそこで終わったそうです。

どことなく変な違和感がありましたが、なんでもない夢でしたのであまり気にはしていませんでした。

ところがそれから毎夜同じように扉を開く夢をみるようになり、初めは知らない場所でしたが、次第に自分の見知っている景色になっていったそうです。

幼い頃に遊んだ公園、そして幼稚園、小学校と、だんだん自分と所縁のある場所に通じていて、最近ではこの寮の部屋に近づいているとのことでした。
夢をみる度に、このままではマズイ。寮の最後の扉を開けてはならないという焦燥感と嫌悪感に苛まれるというのです。
また、寮の部屋に近づいて来たら起きていても部屋に違和感を感じるようになったらしいです。

具体的にどんな違和感を感じるのか聞いたところ、自分のものではない香水の匂いがするというのです。
そして知らない長い髪の毛が、よく部屋に落ちているといいます。
髪の長い女性を部屋に入れた記憶は当然ありません。

私は友人に、疲れているのかもしれないから実家に帰ってみたらどうかと、提案しました。
ちょうどその日から夏休みで帰省にはもってこいだったため、友人は私の案を受け入れて気分転換に帰省していきました。
私はアルバイトがあった為に夏休みも寮へ留まりました。

そしてその夏休みに卒業生の先輩と飲む機会があったのですが、思いがけない話を聞きました。

「そういえばあの寮の部屋はまだあるのか?」

唐突な質問になんのことか分からず聞き返すと、どうやら私の住んでいる寮の、友人がいる部屋のことを言っているようなのです。
そこには友人が住んでいますよと私が話すと、先輩はバツが悪そうに忘れてくれといいました。

私はなんだか胸騒ぎがして先輩にその部屋について問いただしました。すると過去にその部屋で亡くなった方がいたという、噂があるというのです。
詳しい死因や、自殺なのか病死なのかはわかりません。

思いもよらない話に私は寒気を覚えました。
友人の異変と何か繋がりがあるのだろうかと思いましたが、どうすることもできません。

それから数日たった夜でした。
その日は大変蒸し暑かった記憶があります。
そのアパートは珍しくペットOKな物件で、とはいっても飼っていたのは私だけでしたが、いつもは大人しい愛犬がしきりに外に向かって吠え始めたのです。
時間は23時を少し過ぎた頃でした。

なんなんだと不思議に思っていると、電灯が2回バチバチと点滅しました。
私は急に怖くなって携帯電話を手に取り画面を開こうとすると、今度は携帯電話の電源が落ちたのです。
ヤバいものを感じた私は愛犬を引き寄せて布団を被り、もう寝てしまおうと目を閉じました。

コツコツコツ…

どこからか甲高い音が聞こえてきました。
何だろうと耳を澄ますと、どうやらハイヒールの音のようです。
しかも私の部屋の玄関前に足音の主はいるようで、コツコツと行ったり来たりしています。

玄関前にいつの間にか女の人?!今までハイヒールの足音なんて一つもしなかったのに!

私は脂汗をにじませながらも恐怖に耐えていました。
一瞬ベランダから外へ逃げ出そうかという考えが頭を横切りましたが、愛犬がしきりに嫌がるのでそのままやり過ごしました。

気がつくと朝になっていました。
私は戻ってきた友人に先輩から聞いた話を伝え、部屋を変えた方がいいと言いました。
ですがそれから数ヶ月しないうちに、その友人は学校を中退してしまいました。

私の部屋の出来事と、友人の異変、先輩から聞いた噂…。
それらに関係があるのか、私にはわかりません。

コツコツと響き渡っていたハイヒールの足音が、今でも耳に残って離れません。

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