恐怖の泉

実話系・怖い話「真夜中のドライブ」

これは私が20代の時のことです。
当時付き合っていた彼氏と一緒に、ドライブへ出かけることとなりました。
彼はとても大雑把な性格で、特に目標を決めずに真夜中でも平気で出かける人でした。
彼曰く
「夜中の方が道路が空いていてスムーズだし、観光地も楽に回れる」
のだそうです。

その日、彼はただ「山梨へ行こう」とだけ言い、夕方に出発しました。
目的地どころか泊まるところも決めていないという無計画なドライブです。
私も若かったので、何だかワクワクするという気持ちになっていました。

やっと山梨に入ったと思ったのですが、○○市というところに入ってから山道のみになりました。
真夜中なのでいくら走っても真っ暗な山の中で、民家も全くありません。
夜11時を過ぎても山道のままなので、このまま夜明けまで走り続けるしかないと思っていました。

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すると道路から一歩奥に入ったところに「旅荘」という古い看板が見えました。
私達は「まさかこんなところに」と思ったのですが、側道に車を止めて奥の方を見てみると、本当に木造の古めかしい旅館があったのです。
そこで車から降りて近づいてみると、入口付近は白っぽくてキレイで、ドアのすりガラスの中にはオレンジ色の光の様なものが見えました。
「もう潰れちゃったんじゃないの?」なんて言いながら近寄ってみると、玄関の外にあったドラム缶の裏に人影が見えたのです。

私は思い切って「こちらの旅館の方ですか?」と声をかけると、その人影はこちらをチラリと見た様に思えました。
しかし何故かその人影は、ドラム缶の陰にスッと消えてしまいました。
あれ?と思い近寄って見ると…誰もいませんでした。確かに人がいたと思ったのですが…。

私は直感的に幽霊だ!と思い、彼に「逃げよう!」と言って車に駆け込みました。
ところが彼は幽霊を全く信じないタイプで
「人がいたの?何で泊まれるか訊いてみないの?」
と言って玄関まで近寄っていったのです。

私はもうほぼ半泣きです。彼は古い木でできた、すりガラス付きの玄関をノックしていました。
しばらくすると、彼が走って戻ってきました。

「何かいるっ!ドア越しにピッタリ誰かが張り付いてきた!」
と叫んでいました。
私達は慌てて車を発進しようとしたのですが、まるでホラー映画のワンシーンの様にエンジンが中々かかりません。
こんなことがあるのかとパニック状態になりましたが、やっとエンジンがかかって走り出しました。

恐怖映画では、よく振り向くと後部座席に幽霊が乗っていたり、窓の外に誰かが張り付いているのが見えるシーンがあったので、視線を絶対にそこへ向けない様、ひたすら前だけを見つめていました。
頭の中では何度も「南無阿弥陀仏」と唱えていました。

その時急に彼が「後ろが見えない」と言いました。
バックミラーを見ると、いつの間にか車のトランクが開いて上がっていたのでした。

思わず幽霊が乗ってきた?!と思ってゾワーっとしましたが、そのままでは走行できません。
さすがに怖いのでしばらく走ってから車を止めて、彼がトランクを閉めました。

もうドライブは中止で、そのまま必死で東京に戻りました。
翌朝ガソリンスタンドで給油をしたのですが、その時にスタッフの人から
「後ろ、すごい泥がついてますよ」
と言われました。
びっくりして見ると、車のトランクの辺りに泥だらけの指の様な跡がいくつもついていたのです。

もしかして幽霊がトランクをこじ開けて、乗り込もうとしていたのでしょうか。そう思うと、怖くて仕方ありません。
それ以来彼は真夜中の無謀なドライブに出かけることはなくなり、半年後に私達は別れてしまいました。
今でも忘れらない、私の恐怖体験です。

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