恐怖の泉

人間の怖い話「ピンセットの男」

もう20年以上前、私が中学生の頃の話です。

私の家族は新築のマンションへ引っ越し、毎日ウキウキしながら過ごしていました。
前に住んでいた家は狭いアパートだったので、新しくて広々とした部屋が嬉しくて嬉しくて仕方ありませんでした。

家はマンションの1階にあり、小さいながら庭がありました。
庭の向かいにも大きなマンションが建っていましたが、壁で仕切られていたし、そのマンションの共用の廊下側に面していたのでお向かいさんと視線を合わすということもなく、部屋から庭に出入りできる環境でした。

スポンサーリンク

ところが住み始めてしばらくすると、母が
「庭に干していた下着が無くなっている」
と言いました。

マンションの1階ですから、侵入できない事はないので下着泥棒が入ったのだと思いました。
その後も何度か洗濯物が無くなる事があり、管理人にも報告しましたが、少しずつ恐怖と気持ち悪さを感じ始めていました。

ある日庭に出た時に、向かいのマンションの4階くらいの廊下に立ち止まったまま、こちらをじーっと見ている男の人と目が合いました。
見たところ20代くらいでしょうか。トレーナーのようなものを着たラフな服装の男でした。
たまたま廊下を歩いていて目が合ったという感じではなかったため、ゾクっと怖さを感じ、私は目を合わせないように平静を装い部屋に戻りました。

そんなこともあり、その後は庭に下着を干すことはやめていました。

それからしばらくたった頃、庭に出た時に何かが落ちているのに気付きました。
よく見るとそれはピンセットでした。
普段使うような普通の毛抜きではなく、病院でガーゼとかを扱う時に使うような、持ち手の長いタイプの物でした。

当然、我が家の持ち物ではありません。家族にも確認しましたが、誰も心当たりはありませんでした。
下着泥棒、うちの庭を見ていた男、そしてピンセット。
目的は分かりませんが、誰かに標的にされているような気がしてきました。

ピンセットを見つけた数日後、家のインターフォンが鳴ったので母が対応したそうです。
私は学校に行っていました。

玄関の前には、男性が立っていたそうです。
用件を聞くと
「数日前にピンセットを庭に落としてしまったので、拾わせてほしい」
と言ってきたそうです。

どう考えても、故意に投げ入れようとしない限り、うちの庭にピンセットを落としてしまうなんてことはあり得ません。
母がどこで落としたのか聞いたところ、男は
「自分は向かいのマンションに住んでいる。廊下でジャンプをしていたら、胸ポケットに入れていたピンセットが落ちてしまった。」
と言ってきたそうです。

そのやり取りを後から聞いて、本当に鳥肌がたちました。

ジャンプしてポケットに入れていたピンセットが10メートル近く離れた庭に落ちますか?
廊下でジャンプをしているのも怖いし、ピンセットを持ち歩いているもの怖いし、数日経ってから取りに来る…行動すべてが恐怖でした。
侵入してきて鉢合わせになったらと想像すると本当に怖くて仕方なかったです。

母はピンセットは見かけていないし、見当たらないと伝えて帰らせたそうです。
母も警戒していたので直接顔を合わせることはせず、ドア越しに対応したそうです。
声の感じも若かったと言っていたので、恐らく向かいのマンションからこちらを見ていた、あの男だと思います。
男が直接うちに来て以来、不審な事は無くなりました。

その後しばらくたってからですが、向かいのマンションに住んでいる同級生に「下着泥棒で捕まった住人がいた」と聞きました。
ピンセット男と同一人物かは分かりません。直接的な被害はなくても、また見られているかもという恐怖で、なるべく庭に出ないようになりました。

新築のマンションに喜んでいた私にとって、この体験は衝撃でした。
私は引っ越す時は今でも、必ず1階の部屋は選ばないようにしています。

スポンサーリンク

TOP