恐怖の泉

実話系・怖い話「走行中に叩かれたドア」

私は衣料品の縫製をおこなう会社に勤めていて、その日は外部の縫製工場にお願いしていた製品を回収するために、2tトラックを運転していました。
これは、その帰り道での出来事です。

その外部の縫製工場までは会社から片道40分ほどの距離で、ガードレールの先が深い崖になっている山道を通ります。
山道といっても、それなりに交通量があることで整備はしっかりとされていましたし、カーブは多いものの車幅にゆとりのある二車線の道路で、危ない道だと思うことはありませんでした。
夏というにはまだ早い時期でしたが、その日は雲一つないキレイな青空で、じっとしていても汗ばむような日でした。

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私はゴーと唸り声をあげるエアコンの音を聞きながら、山の緑が生き生きとした山道をドライブ気分で走行していたのですが、急に強烈な眠気に襲われてしまいます。

ハンドルを握ったまま腕の力が抜けて、トラックが小さく横に動くのをなんとか抑えようとしても、だんだん力の抜ける間隔が狭くなり抑えることも難しくなっていきました。エアコンの音もだんだんと聞こえなくなっていきます。
自分が危険な状態にあるのはわかっていても心が何も感じなくなっていて、怖いと感じないから眠気は強くなる一方です。
自分が運転をしているのに、まるで他人の体験を見ているような気分になっていました。

この山道には休憩用の場所がいくつかあるから、それが見えたらすぐに入ろう…。
少しでも頭が動いている間にトラックを止められる場所に着くことを祈りながら、なんとか運転をしていたときです。

バンバンと私の右手側、運転席のドアが大きく叩かれました。車が軽く揺さぶられるくらいの強さでした。
するとそれまでの眠気がウソだったかのようになくなり、聞こえなくなっていたエアコンの唸りも鮮明に聞こえ始めました。

最初は、フラフラと走っている危険なトラックに異常を感じたバイクが、ドアを叩いたのかと思いました。
ですが辺りを見渡してもバイクの姿はどこにも見えません。
それならあの音と揺れは何だったのだろうか。まさか飛び出してきた動物でもはねたのか…それとも気づかぬ間に対向車と接触事故でも起こしたのだろうか…。
危険な状況からは脱したものの、今度は事故を起こしたかもしれないという不安が襲ってきました。

ほどなくすると道路に車両休憩用のスペースが見えたので、トラックを停車させて車体を確認しました。
しかしキズ・ヘコミなどはどこにもなく、とりあえずは接触事故等ではないことがわかりホッと胸をなでおろしました。
一応歩いて道路を引き返し確認をしましたが、音がなるような原因になるものはどこにも見つけられませんでした。

このとき私の脳裏に浮かんだのは、この道路には事故で死んだドライバーの幽霊が出るという話でした。
事実、その山道は事故が多く注意を呼びかける看板がうるさいほど出ています。
ドライバーの幽霊以外にも、殺人事件に関係するといわれる場所が何か所もある山道でした。

私はそんなものよくある噂だろうぐらいに思っていましたし、この山道は何度も通っていますが、幽霊の姿どころか恐ろしいと感じたことは一度もありません。
ですが自分がこうして実際に不可解な体験をしてしまうとは…。

あの時この体験をしていなければ、こうして自分が体験したことを伝えることもできなくなっていたかもしれない。
そう考えると、不思議な出来事の正体が幽霊だとしても「ありがとう」と言わずにはいられません。

きっと事故を起こす前に幽霊に起こされたのではないか、そんな風に思えて仕方がありません。

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