恐怖の泉

実話系・怖い話「囁く人影」

27歳の時、私は長時間労働のため体を壊し転職しました。
転職先は業務用の惣菜を取り扱う卸問屋でした。

そこは従業員数40人ほどの小さな会社で、配属先の販売促進企画課には私より2歳年下の女性が1人しかいませんでした。
その女性(仮でAとします)が1人でやっていた部署に、私が増員という形で配属され、Aしか部署の仕事がわからない状態でした。

入社して1ヶ月も経たないうちにAから
「本当は別の人が採用されるはずだったのに、断られたから貴方が採用になったんだよ。」
と言われるようになりました。
初めの評価が低いのならば頑張って仕事で認めてもらわなければいけない、と思った私は必死で仕事を覚え、こなしていきました。

数ヶ月経った頃、さらに増員ということになり新入社員の女性(Bとします)が配属されると、AはBに仕事を教えるためと言いながら露骨に私を無視するようになりました。原因はわかりません。
女性3人しかいない部署で私が孤立しているという、異様な状態に他からは見えていたようです。
隣の部署の係長から
「虐められているだろう、大丈夫か。」
と声を掛けられるようになりました。

それでも日々の仕事をこなすしか、私にできることはありません。
しかしたまたま人事担当の方と話す機会があり、その状況を説明したところ「またか…」と呆れたように怒っていました。

どうやら私が入社する前には3人の前任者がいたらしく、皆Aの虐めが原因で退職に追い込まれていたようです。
その人事の方からは
「Aには近々結婚の予定があり退職するからもう少しの間我慢してほしい。」
と頼まれました。

その後も、俗にいうお菓子外しや無視などの虐めは続きましたし、総務も私が怒っているのを知っていたのでなるべく関わらないようにしていました。

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と、長くなりましたがここまでは前置きです。
いつの頃からかははっきり覚えていませんが、とある異変が起きました。
Aの後ろに3体の人影が現れるようになったのです。

3体の人影は、どうやら私にしか見えていません。
その3体はAに何かを囁き続けています。何を言っているかは聞き取れません。
基本的には私達のいる部署の部屋にしか居ないのですが、たまにAやBの後をついていくこともありました。

3体の人影はAの後ろで絡むかのようにしていることが多く、Aが席を外すと1体が代わりに椅子へ座っていたりと、比較的自由に動いているようにも見えました。
AとBには、何か変化や影響があるわけではないようです。

そしてAの出社も2日残すのみで、あとは有給消化に入るという日のことです。

その日もいつも通りAとBが一緒に外出し、部屋には私だけが残っている状態でした。
隣の部署は会社にいるので寂しくはないのですが、それが許される環境や注意しない上司に対して苛立ちはありました。
相変わらずAの後ろに人影がありましたが、それらは外出したAには付いて行かず、Bの席、窓際、私の目の前と、私を取り囲むかのような配置に動きました。
人影にはもう慣れていましたが、3つがまるで私に関心があるように動いたのが初めてのことだったので、かなりビックリして恐怖を感じました。

無視して仕事に取り掛かろうとすると、人影はボソボソ何か話しかけてきます。
見えていない、何もない、無視しなければ…とは思うのですが、気にしないことなど出来ず、硬直したままパソコンの画面を見つめるしかありません。

人影はさらに近づいてきます。声も近くなり、人影が何を囁いているのかも聞き取れるようになりました。

「死ねばいいのに…」
「許さない…」
人影は繰り返し囁いていました。

私は関係ない!何もしていない!
塞ぎ込んで心の中でそう叫んだとき

「そう思ってるんでしょ」

と、囁きではなくハッキリとした声で聞こえました。
思わず顔を上げると、影の1人が私の顔になっていて、ニヤニヤ笑っていました。

思わぬ出来事に、私は給湯室へ駆け込みました。
お茶をがぶ飲みしながら、さっきのは気のせいだと自分に言い聞かせました。
席に戻ると、人影はいなくなっていました。

お昼が過ぎAとBが外出から戻ると、人影が4体に増えていました。
声もいつもと違って大きく
「死んでしまえ」「許さない」
と言っているのが聞こえてきました。

そしてAが会社を辞めると、影は現れなくなりました。
Bも、Aが辞めてからすぐに体調不良という理由で退職していきました。

風の噂によると、Aは旦那さんの不倫やら借金、さらに子供や親族に不幸が起きているとかで苦労しているそうです。
Bも、どうやら病状が良くないらしく入退院を繰り返していると聞きました。
それがあの人影のせいなのかは、私にはわかりません。

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