恐怖の泉

実話系・怖い話「古びた車」

ある日の夕暮れ時、私は大学の授業を終え車で帰宅する途中だった。

入学して間もない私は新入生にもかかわらず車通学をしていた。今思うと便利なことだ。
当時は早く家に帰れる道を探すため、日々異なる道を選んで時間を測りながら帰宅していた。

町中が帰宅ラッシュ、人混み。私はそれを避けるように細い道へと入っていく。
その日入り込んだのは私鉄沿線の旧道。のどかな風景はどことなく寂しげだった。
車同士がすれ違うのにギリギリな幅の道は、軽自動車に乗る私でも少し狭いと感じた。
ふと鳴り響く踏切にブレーキを踏み、電車が通りすぎるのを待つ。
遮断機が上がると、私は時間を気にしてアクセルを踏み込んだ。

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そこからほんの200メートルほど進んだ辺りだろうか。
私は古い家屋の前で、年季の入った紺色の車を見つけた。

古いプリウスのような、車高の低い車だった。
買った当時は高級車だったのだろうけれども、泥や煤だらけになってしばらく動かされていなさそうだ。
洗えばカッコいい車なのにもったいないな、と思った矢先の出来事だった。

徐々にその車へ近づいていくと、ハザードランプが点滅した。

普通、リモコンキーでドアロックをかけるとハザードランプの点滅は1回、ロック解除なら2回点滅するはずだ。
しかしその車のランプは3回点滅した。

人が乗っているのか?
いや、それにしては汚れすぎているように思う。ホイールやマフラーだって錆びついてきている。

私はその古びた車の中に誰かいるのか確かめようとブレーキを踏み込み、徐行する。
聞こえるのは、外で風の吹く音と自分の車のエンジン音だけ。
辺りは徐々に夕闇に染まり、赤黒い空がどろどろとしている。
どことなく不気味な雰囲気が、私の心拍数を高める。

車の中には誰もいない。

辺りの静寂が、私の恐怖感を掻き立てる。
古びた車の窓ガラスは汚れてはいたが、中の様子は見える。誰も乗っていない。
なのに、ハザードランプが点滅した。

一体どういうことだろうと不思議に思っていると、車の中に突然、青白い人の顔が浮かび上がった。

その後、私がどうやって帰宅したのか、どうやってその場を離れたのかすら、全く覚えていない。
浮かび上がった顔は、あの車の持ち主だったのだろうか。
ひょっとしたら、私に何かを伝えようとしていたのか。

その後、何度か同じ道を通ってみたが、その古びた車を二度と見ていない。

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