恐怖の泉

実話系・怖い話「愛犬の嫉妬」

私が幼児の頃から飼っていた愛犬が死んだ。
12歳まで生きたので、犬にしてはまあまあ長く生きた方だろう。

家族全員に見守られ眠るように亡くなったのち火葬、残った骨には緑色の何かが残っていて、火葬場で長く働くおじいさんに
「これはわんちゃんが幸せだったって証拠だよ。」
と教えてもらった。

家に帰ってからは、心にぽっかりと穴が開いたような強烈な寂しさと悲しみで連日涙がにじんだ。
いつも愛犬が寝ていた場所についつい目をやり、愛犬がいないことを再確認する日々が続いた。

一年が過ぎたころ、妹がついに
「新しく犬をもらってこよう!」
と提案した。

犬だからいくらでも代わりがいる、なんて思ってはいないが、それでも初めて目の当たりにした死で私の心は疲弊しきっていた。
そして妹とともに両親に頼み込み、新しく犬を飼うことに決まった。

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私の家では昔から犬を飼うとき必ずボランティアからもらってくるのだが、今回も同様にネットで犬の写真を見て選び始めた。
この子は可愛いからすぐ貰い手がある、赤ちゃんも貰い手があるとあれやこれや話し合い、結局2歳の犬に決めたその時だった。

突然私のすぐ横から鋭く何かが飛ぶ。
かなり低い弾道で飛んだそれは、パソコンの前に座る父の太ももに当たった。
父は「痛っ!」と声を上げ、全員がぱっと当たったものを見ると、それは錆びた髪留めピンだった。
細長い棒を二つ折りにしている形のよくある黒いピンである。
当時家にはたくさんあったが、ここまで錆びているものを見るのは初めてだった。

咄嗟に何かいるのか?と後ろを警戒して振り返ると、背後の襖が少し開いている。

ここから飛んできたのか?

しかし襖の中は服の入った引き出しがあるばかりで、ネズミのような小さい生き物くらいしか入れるスペースは無いはずである。

ちなみに部屋はダイニングとつながっており、パソコンはダイニングとの境目あたりでその対角に私、私の隣に妹、その隣に母がいるという配置だ。
そしてピンが飛んできたのは妹とは逆の方向、ちょうど襖が開いているところから発射されたとしか思えない軌道である。
その飛ぶスピードと軌道の正確さは、私が狙って投げようと思ってもできないものだと直感した。

私はこの現象のおかしさを必死に訴え家族も共感してくれたようだったが、襖の中を確認しても何も不審な点は無かったためそこまで騒ぎ立てることもなく、また父がパソコンの前に戻る。
しばらくボランティアの連絡先や飼うまでのやりとりについて調べていると再度父が
「痛っ」
と声を上げた。

私は父と少し距離があったため、何があったのかはしっかりと見えていた。
パソコンの上に設置されたエアコンから何かが落ちたのだ。
確認すると先ほどと同様の錆びたピンである。

なぜエアコンの上に?
そして揺れも何もないのになぜ落ちたのか?

ようやく家族も奇妙だと思い始め周囲を見回すも、やはり原因となるようなものは何もいない。
その夜は警戒して家族全員固まって眠ったが、それ以降何かが起こることはなかった。

後になって母親が
「もしかしたらあの時○○ちゃん(亡くなった愛犬)、私を忘れないでって言ってたのかもしれないね。」
と言った。

父親にばかりピンを当てていたのは、パソコンを操作しているのが父だったからなのかななんて笑い合って、ピンは愛犬からのメッセージだったということに落ち着いた。

それからのこと、新しく来た愛犬が空を見つめていたり、私自身も家の中で何かの視線を感じることが幾度かあったが、きっと愛犬がそこにいるのだろうと思うようになった。
引っ越した今ではそのような視線は感じず、またあの家に戻れば会えるのかな…と思うばかりである。

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