恐怖の泉

実話系・怖い話「窓から見える人影」

これは私の知人から聞いた話です。

Sさんという方は中学生の頃から陸上部に所属し、長距離走やマラソン、駅伝などに参加していました。
さほど成績はふるわなかったもののとにかく走ることがとても好きで、社会人になってからも同好会などに参加していたそうです。

ところが結婚後に大きな病気をしてしまい、数年間走ることはおろか運動をすることもできなかったそうです。
ようやく回復してから、リハビリを兼ねて少しずつジョギングをするようになりました。

彼女は結婚後すぐに旦那さんと購入したマンションに住んでいたのですが、その駐車場が割と広々していたためジョギング前後の準備運動やストレッチはそこでしていたそうです。
その駐車場からは自宅の窓がよく見えていました。

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その生活を1年ほど続けた頃にふと自宅の家の窓を見たSさんは、驚くべきものを目にしました。

寝室の窓の所に、人影が見えたのです。

Sさんは毎朝旦那さんを送りだし、家事を一通り済ませてから朝のジョギングに出発していました。
ですからもちろん家の中には誰もいるはずがないのです。

もしや空き巣が!?と思ったSさんは、急いで帰宅してドアを開け家の中をくまなく点検しましたが、全く変わった様子はありませんでした。

でも確かに人影が…もしかしたら、忘れ物をした夫が慌ただしく帰ってきたのかもしれないと、彼女は思い直したそうです。
その夜、帰宅した旦那さんにそのことを告げました。すると

「いや、僕は帰ってなんていないよ。ああ、それはきっと、向かいにあるマンションの人影が光の反射か何かで映っていたんじゃないかい?」
という、もっともらしい説明をしてくれました。Sさんはそれを聞いて、とりあえずほっとしたのです。

その後毎日、Sさんはストレッチの際に駐車場から自宅窓を見上げるようになりました。
すると毎日ではないのですが、数日に一度の割合でやはり同じ位置に人影が見えるのです。
ずっと見つめていると消えてしまうのですが、何度も見ているうちにどうやら年配の女性…お婆さんのような人影に見えてきたという事です。

旦那さんが言ったように、その窓からちょうど正面にあたる建物の集合住宅には年配の夫婦が住んでいることを彼女は知っていました。
ですからそこのお婆さんの影が反射で映っているのだと、Sさんは安堵していたのです。

ところがとても寒い冬の日の朝、彼女はその影がただの反射でないことを知りました。
いつも通り人影を見て、振り返って向かいの年配夫婦の住居の方を見ると、鎧戸がしっかり閉まっていたのです。

反射映像ではないとわかり、驚いたSさんが再び寝室の窓を見ると、今度ははっきりとそのお婆さんの表情までが見えたという事です。
その姿は亡くなった父方のお婆さんにそっくりで、とても優しい表情でにっこりと微笑んでいたそうです。

「何だ、お婆ちゃんの幽霊なら怖がることはない…。」
姿がはっきり見えたことで逆に安心感を覚えたSさんは、以来その人影を見ても短く笑いかけるだけにしていたという事です。

そうして数十年がたち、Sさんは綺麗に年をとっていきました。
旦那さんに先立たれてついに老齢により走ることもできなくなると、Sさんは寝室の窓のそばに椅子をおき、そこで1日の大半を過ごすようになったのです。

晩年、訪ねてきた妹(私の知人です)がSさんに
「外の景色を見ているの?」
と聞くと、彼女は
「いえ、昔の自分を見ているのよ。」
と言って、この話を語ってくれたそうです。

「あの頃は単にお婆さんだと思っていたけれど、本当は今の私なのよ。私は父方のお婆ちゃんにそっくりだしね。
歳をとると、時々見たいものが自由に見えるようになるわ。病気が完治して、走ることを再開できたあの頃は本当に嬉しかったから…。
繰り返し見ては、良い人生だったと思えるの。」

Sさんはそれから数年後に他界されたそうです。

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