恐怖の泉

人間の怖い話「華やかな着付け教室」

夏になると浴衣の着付けを教えてくれる教室があったりしますよね。
私も自力で着付けをすることができなかったので、とある教室へ通うことにしました。
これはその教室であった体験です。

初回は夫もその教室の入口まで付いてきてくれました。
夫の姿がドアの外に見えなくなった途端
「あの人お兄さん?大学生?とっても感じがいいのね。」
と講師が声をかけてきました。私は
「彼は社会人だし、兄ではなく夫です。」
と返しました。
講師は私を高校生だと勘違いしていたらしく、たいそう驚いていました。

すると講師は
「どんなお仕事してるの?」
「和服は彼の趣味?」
「専業主婦?」
「ご両親の職業は?」
などと勢いよく根掘り葉掘り聞いてくるようになりました。

教室には20代前半の人なんて殆どいなかったし、ガキのような見た目なのに既婚という変わり種なせいで、私は数人の講師によくいじられていました。
私だけ稽古の後にささやかな御茶会へ誘ってくれたことも何度かありました。

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そんな講師陣に囲まれ、私は浴衣コースが終わると普通の着物着付けコースにランクアップしました。
すると色々用具が必要になるのですが…教室価格だと高いんですよね。
講師はそういう高額商品をゴリ押ししてきたので、私がアマでコスパのいい長襦袢を買った時には目をギラつかせて
「あらぁ~いい長襦袢ね。どこで買ったの?」
と執拗に食いついていました。

さらに、私は自分の着物を着付けられればそれで十分だと宣言していました。
なのにいつの頃からか師範クラスや資格を取る話が出てきていました。
この時点で「ん?」と感じた私は、もう着付け教室に不信満々でした。

それからというもの、勧誘が特に露骨になりました。
例えば「系列教室でのお稽古も、よかったらどう?」という具合です。

私は頑なに断りました。
稽古の度に数回勧誘されるので、もう何度断ったかわかりません。

つれない態度をとり続けたある日、外部の会場で行われる着物の展示会に招待されました。
かなり面倒だったので渋りましたが「見るのも勉強」と強く言われたため、仕方なく参加することにしました。

その会場で素敵な20万円の小紋があったので職人の話を聞いていたら、気がつくと5人くらいの講師に私は囲まれていました。

「小紋は1枚持っておくといい。」
「絶対に似合う!」
「店売りだとこの2倍の価格はする。」

講師たちは口々に小紋を買うことを勧めてきました。
しかし気軽に買い物を出来る値段ではありません。そもそも私は買う気がないのに…。

なんとかこの状況を打破しないとと思い、「持ち合わせがない」と言うと
「あそこにローンが組めるスペースがある。」
と、会場の隅を指されました。
とりあえず逃げるようにローンスペースへ駆け込むと、会社の人と2人で話すような仕切りができていました。
そして隣のブースからは
「連絡は家にいくのか?家族には秘密に…」
という声が聞こえてきました。

私が見積もりをしてみると、20万だったものが合計30万ほどに膨れ上がっていました。
明細を見ると、プレゼントされた長襦袢の分も含め、仕立て料が発生したりするようです。
私は背後を確認してから
「この話はなかったことに!」
と言ってそそくさとブースを出ました。

それからまた展示物を見ていると、数人の講師が円陣を組むようにしゃがみこんでいるのが目に入りました。
何をしているんだろう?と後ろから覗き込んでみると、5~6桁の数字がいくつも並んでいるのが見えました。
するとその瞬間、別の講師に
「金勘定のことはいいの!ほら、あそこに綺麗な帯がある!」
といきなり腕を引っ張られてその場から引き剥がされました。

この時、私はまんまと講師連中にカモにされたことを確信しました。
私の家族や職業のことまでやたら聞いてきたのは、高い支払い能力を持っているのかを見定めるためだったのでしょう。
金があると分かったから可愛がって上級クラスだの展示会だのに引きずり込み、支払いをさせようとしていたのかもしれません。

ともあれ、その教室には2度と行かずに辞めました。
もちろんどの着付け教室もこういった事をしている訳では無いでしょうし、私はしっかりと着付けができるようにはなりましたが…。
習い事をしたい方はご注意下さい。

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