恐怖の泉

実話系・怖い話「天井の足音」

これは実際に私が体験した話です。

私の家は10階建てマンションの9階にあります。
ちょうど真上の家にはお金持ち風な老夫婦が住んでいて、すれ違うと挨拶をする程度の仲でした。
その老夫婦の娘さんらしい若い女性が、夫婦のお孫さんであろう幼稚園くらいの男の子を連れて尋ねてきているのをよく見かけました。
老夫婦の奥様とエレベーターで乗り合わせる度に
「小さい子がよく遊びに来るから、足音がうるさかったらごめんなさいね。」
と上品に微笑んで頭を下げられていました。

たしかに奥様の仰る通り、夜になると天井からパタパタという子供の足音が聞こえることがよくありました。
しかし当時は私の弟も幼かったため、お互い様だと思って気にしていませんでした。

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そのお孫さんの足音がするようになってから、5年ほどたちました。
相変わらずお孫さんは頻繁にやってくるようで、パタパタという足音にもずいぶん慣れた頃でした。

その日は遅くまで自分の部屋で大学の課題をしていて、ふと気づくと夜中の3時頃でした。
さすがにもう切り上げて、続きは明日やろうとパソコンを閉じたその時です。
天井から「パタパタ」という足音が聞こえました。

そのとき、私は気づいてしまったのです。

慣れてしまっていて気づきませんでしたが、足音がする日は曜日がばらばらでしたが、必ず夕方から夜遅くにかけてまでなのです。
初めて会った時の年齢から考えて、お孫さんは現在小学校低学年でしょう。
小学生が平日に、祖父母の家にこんなにも頻繁に泊まりに来るでしょうか。
そして、低学年の子供が深夜の3時まで起きて歩き回るでしょうか。
すっと背筋が寒くなりました。

「なにか家庭の事情があるんだ、あまり詮索するのはよくない。」

そう自分自身に言い聞かせ、私は眠りにつきました。

次の日は大学が午後からだったので、午前中は昨夜のことは忘れて課題の続きをすることにしました。
しかし何となく足音がしたことを思うと、自分の部屋でじっとしているのは何か嫌だったので、パソコンをリビングに移動させることにしました。

パソコンを取りに自室に入ると、天井から小さくパタパタと音がします。
気にしない、気にしないと言い聞かせてパソコンを持ち、リビングに向かいました。
自分の部屋から出ると足音も遠ざかっていき、安心してリビングに腰かけたその時です。

ダン!と私の真上のリビングの天井から、強い足音が響きました。

思わずひっと上ずった声が漏れ、背筋がこわばりました。
さっきまで足音は私の自室で聞こえていたのに…どうして?
私の真上から、しかも今までとは違って自己主張するような大きな音。

いやこれは偶然だろう。半ば無理やりそう言い聞かせた私は、締め切りに追われていたこともあり課題に集中することにしました。

何事もなく30分ほど過ぎたころでしょうか。
ピンポーン、と家のチャイムが鳴りました。
お恥ずかしながらその時私はパジャマのまま、もちろん化粧もしていません。
「そんな状態で人前には出たくない、申し訳ないけれど居留守を使おう。」
そう思っていると、もう一度ピンポーン、とチャイムが鳴りました。
しつこいな、と少しむっとしたのですが、もしかしたら重要な用事かもしれません。
私のマンションは1階がオートロックのため、家のチャイムを直接鳴らせるのは同じマンションの住民だけなのです。

隣人や同じマンションに住む友人かもしれない。そう思った私は、のぞき穴を確認しに玄関に向かいました。
しかし、のぞき穴の向こうには誰もいませんでした。

2度目のチャイムが鳴ってから少し時間が経っていましたし、間に合わなかったんだなという気持ちでのぞき穴から目を離したその瞬間

ピンポーン

チャイムが鳴りました。
チャイムのほんの直前まで誰もいなかったはずなのに。

背中の産毛がぞわぞわと総毛立つのを感じた私は急いで着替え、身だしなみもそこそこにパソコンと筆記用具だけをカバンに詰め込み大学に向かいました。
あのまま家に1人でいるのは、どうしても耐えられなかったのです。

後日家族にも確認しましたが、子供の足音は親や弟も聞いているものの、その他に変わったことはないようでした。
そして自分の部屋でこの文章を書いている今も、天井からはパタパタという子供の足音が聞こえ続けています。

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