恐怖の泉

実話系・怖い話「心霊スポットの怪異」

これは数年前、私が実際に体験した話です。

蝉が土砂降りのように鳴いていた暑い夏のことでした。
仕事を終え帰宅し翌日は休み。特に何もすることもなく暇を持て余していた私がスマートフォンを触っていると、友人Aから連絡がありました。
やり取りを交わす中、その流れで遊ぶことになり近所のA家へ行くことに。
しばらくAの家でゲームをしたりして過ごしていたのですが飽きてしまい、何となくその辺りにあった旅行雑誌を2人で読みながら雑談をしていました。
すると載っていたとある山を見て、Aが何かを思いついたように言い出しました。

「そうだ!あそこのトンネル行ってみないか?暇だしさ。」

私自身も興味があったので、すぐにその場所へ向かうことになりました。
そんなに遠くもないし、何かしらの刺激を求めていた私達はすぐ車に乗り込みました。

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Aが言うトンネルは大きな山の中腹辺りにあるトンネルで、昔から怪しい噂がついて回っている場所でした。
1時間ほどで着くような近さでしたが、時間は既に真夜中。Aのテンションはトンネルが近づくにつれて上がるばかりで、私もそんなAのテンションと同調するように気持ちが跳ね上がって行きました。

山に着いて中腹まで向かう道中、フロントガラスに水滴が付くようになりました。ジトっと張り付くように降る霧雨の中、対向車もないまま山を登りました。
車内にはBGMとしてAの好きなバンドの曲を流していました。

その曲は音楽に詳しくない私でも聞き覚えのある有名なものでしたが、所々にか細い女性の声が入っていました。
はっきりとした感じではなく「ファー」とか「アァー」といった感じの声です。
その時の私は、そういう曲で女性がコーラスをしているのだろうと聞き流していました。
相変わらず弱くも強くもならない雨が降り続く中、もうそろそろトンネルに着く頃合いだったと思います。Aが言いました。

「この曲、さっきから変な声が聞こえない?」

Aが言うには何度も聞いている曲だったので違和感にはすぐに気付いたらしいのですが、私を怖がらせるわけにはいかないと思い黙っていたようです。
ところがその変な声が入る部分が、トンネルに近づくにつれ徐々に増えてきていたのです。

Aにそう言われると確かにおかしい。声が増えてきているのもあるし、微妙にですがその声のボリュームも上がってきているような…?

肌が粟立つ感覚を覚えながらも車は止まることなく走り続けます。
「あの道を曲がるとトンネルがあるらしい」
とAが言ったその直後、唐突にブレーキが踏まれ思わず前へとつんのめります。

「どうしたんだよ?!危ないだろ!」
と言うとAは
「今、誰かに足を掴まれた…。」
と無表情で私に言いました。

これは危ないと思った私達はすぐさまに下山しました。
目的地はすぐそこでしたが到着する前からこんな状態では絶対に良くないことが起きる。
帰りの車内ではBGMはかけませんでした。

下山してすぐ近くにあったコンビニへ車を停めました。
そのまま帰ることも出来たのですが、それらしい体験は2人とも初めてのことだったので動揺してしまい、明るくなるぐらいまではコンビニでちょっとゆっくりすることにしたのです。

気が昂ぶっていたからか、車を降りる時には気付かなかったのですが、車内に戻った時。Aが「うわあ!」と叫びました。
なんだよと駆け寄ると運転席、Aの足元に置かれているシートがぐっしょりと濡れていました。助手席側、後部座席のシートは無事です。
何故かAの座っていた席のシートだけが濡れていました。

私は
「なんか漏らしたんじゃないの?」
などと気を紛らわせようと冗談を言ったのですが、A自身になにも変化はありません。座席は濡れてはおらず、ただシートだけが濡れていたのです。
Aは濡れたシートをジッと見つめたまま無言でした。

とりあえずそのシートはボンネットの上に置いて、朝になるまでその場で待機していました。
特にこれといった会話もなく、Aも黙りがちになっていたので私も無理に話しかけたりはしませんでした。

そうしてやっと朝になり、これでもう大丈夫だろう、さぁ帰ろうかとどこかで安堵した気持ちになった私達は、駐車場を出て信号待ちをしていました。

私達には一瞬何が起きたか分かりませんでした。
ただ強い衝撃が後ろから来て、私達は前へ打ち付けられていました。Aはエアバックに埋もれていたと思います。
衝撃の正体は、後ろから来た軽自動車による追突事故でした。
私はそれが原因で腰を痛めヘルニアになり、Aは無事だったのですが乗っていた車は廃車になりました。
どうして見通しの良い朝の交差点でそんな追突事故が起きたのか検討もつきません。
軽自動車の運転手は、ボーッとしていて気づいたら追突していたと言います。

あれから一切そういった場所に行くことは無くなりました。Aとは今でも連絡を取っていますが、あの当時のことは話しません。

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