恐怖の泉

実話系・怖い話「同じ産院同じ病室」

事の始まりは、まだ私が20歳の頃でした。
その頃の私は霊感が強い体質で、しかも頼られやすい状態でもありました。
頼られやすい…要するに、霊の方が寄ってきて私に何とかしてほしいというのです。
私はいつでも『見える』わけではないので、気づかぬ間にスッと入り込まれるのだと近所のお坊さんに言われたのもその頃でした。

そんないろんな意味で『多感』な時期に、私は結婚・出産を迎えることになりました。いわゆるデキ婚というやつです。
初めての出産、家族の意地悪(笑)、子育てや相手家族との同居の不安などなど、かなり感情が高ぶっていた状態での出産でした。
感情が高ぶっているとき、それは私が『見える』ときです。

なんとか陣痛の痛みにも耐え、ようやく出産が終わりました。
産後の処置を終え、一眠り。赤ちゃんは新生児室。
かわいいわが子を見に、何度も足を運びました。
他の誰とも変わらない、幸せな産院の当たり前の時間を過ごしていました。
私の出産した産院では、出産初日は母子同室ではありません。つまり、夜も部屋には私1人。
出産の疲れですぐ寝るものの、またすぐ目が覚める…といった感じで過ごしていました。

スポンサーリンク

何時ころだったでしょうか。またふと目が覚めました。
なんとなく眠れず、新生児室にわが子の様子を見に行きました。
スヤスヤと眠っているかわいい娘。ぐっすり眠っています。
幸せな気持ちで部屋に戻る暗い廊下を、1人歩いていました。
他の部屋からは赤ちゃんの泣き声が聞こえますが、それもまた愛おしく思いながら部屋のドアを開けました。
ほのかにミルクの香りがする部屋で、私はまたベッドに入りました。

そして壁の方を向いて横になったとき。
背中が凍るかと思うほど冷たい感じがしました。
私は必死で『来ないで、来ないで!』と心の中で叫びました。
…でも、無駄でした。

腰にひんやりと、でもどっしりとした感覚があり、私は『マズイ!』と仰向けになりました。
霊が入ってこようとしたと感じたからです。
このままでは私の体が乗っ取られてしまう!
でもいい対策が思いつきません。怖さで体が震えていました。
すると今度は、スーッと体が引っ張られるような感覚がしました。
えっ?と思い、思わず目を開け顔を横に向けると、髪の長い女の人が私の目の前にいました。
しかも、髪を振り乱して睨み付けてこう言い出しました。

「返して…返して…私の赤ちゃんを返して…」

そう言いながら、私の体に入り込もうとしてくるのです。
私は、母から教えて貰っていたお寺の念仏を唱えることを思いつきました。
念仏を唱えながら
『私はあなたの赤ちゃんは知らない!何もしてあげられないから帰って!』
と何度も言いました。

少しカーテンの向こう側が明るくなってきたころ、彼女はいなくなりました。
ようやく、私は眠ることができました。
その後は退院の日まで、彼女を見ることも感じることもありませんでした。

そして3年後。私はまた子宝に恵まれました。
2人目を出産した後は、また同じ部屋に入院しました。
すると最初の夜。再びあの女性の霊が現れ、今度は私に馬乗りになり首を絞められました。

「返して…返して…私の赤ちゃんを返して…」
と言いながら…。

私は長女の時と同じように念仏を唱え
『私はあなたの赤ちゃんは知らない。何もしてあげられないから帰って!』
と願いました。
しかし怨念が強くなったのか、なかなか帰ってはくれませんでした。
でも結局朝になる頃には彼女の気配はなくなり、また現れることもありませんでした。

その後、妹の知り合いがその産院で看護師として働いていたので話を聞くと、数年前に母子ともに亡くなってしまった方がいることを聞きました。
出産までとても順調で何の心配もいらなかった母子だったのに、分娩時に急変して救急搬送も間に合わず、母子別々の場所で亡くなったとのことでした。
なんでも珍しいケースなので、必ず引き継いでいくよう言われているのだとか…。
私はなんとなく、その母親が霊として現れているのではないかと思いました。

そしてまた3年後。3人目が出産予定です。
3人目の出産の時も、なんとなくですがまた同じ産院の同じ部屋になるような気がしてなりません。
大きくない産院とはいえ、15部屋ほどはあるのに…。
もう間もなく出産予定日ですが、新しい命と出会える喜びと共に、またあの女性が来るのではないかという不安もあります…。

スポンサーリンク

TOP