恐怖の泉

実話系・怖い話「お気に入りの部屋」

大学時代に住んでいた安アパートで起こった話。
住んでいた部屋は、築50年くらいの古い建物だった。近くには竹林があり涼しげで、ガスコンロつきのキッチンがあり風呂トイレ別の2DK。
畳の床と日当たりも良く、お気に入りの部屋だった。

1年生の夏休みの事だ。
学生の夏休みは暇で特に予定もなく、僕の家は広かったため近くに住む友人たちの溜まり場にされることが多かった。
家の近い友人はよくうちに泊っていたが、ある日遠くに住む友人Aが夜中に泊めて欲しいと連絡してきた。
Aはそれまで一度も僕の家に来たことはなかったが、どうやら酒を飲み過ぎて終電を逃し、帰れなくなったらしい。

Aを迎えに行ってみると、飲み過ぎたといってもそこまでひどそうでもなかった。
歩き方もしっかりしていたので、コンビニで夜食を買いこんだりして僕の家に向かった。

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Aは人当たりがよくて頭の回転が速く、その夜も僕らはクスクス笑いながら歩いていたが…。
家が見えるくらいの距離になって、突然Aの具合が悪くなった。

口数が減って、目も少しうるんでいる。どうしたのか聞くと、Aは僕の住んでいたアパートの隣の竹林を指さして
「おまえんちあのあたり?」
と聞いてきた。
Aが僕の家に来るのは初めてだったので驚きながらそうだと答えると、突然「帰る」と言い出す。
帰るにも終電がないだろうというと言うと
「おまえの家はいやな感じがするから行けない」
というではないか。

さすがに腹が立ったが、具合が悪そうなのでとりあえず家から離れてファミレスでひと休みすることにした。
落ち着いたAにどういう事か聞いてみると、Aは霊感があるタイプのようで、僕の家の周りには悪いモノがたくさんいてとても耐えきれそうになかったらしい。
特に、アパートのそばにある竹林がヤバいという。
更に、家に来たこともないのに「おまえの家の風呂場、異常にカビ生えやすくない?」というのだ。
僕は一人暮らしは初めてだし、掃除もマメではなかったのであまり気にしたことはなかったが、確かにカビには悩まされていた。
僕の住んでいた部屋で、一番竹林に近いのは風呂場だった。

Aが言うには竹林の悪い気が、そのまま浴室の水気に悪影響を出していると言う事だった。
結局Aとは朝までファミレスで過ごし、見送って朝家に帰った。

自分の部屋をバカにされた気がしたものの、今までのお気に入りの部屋は少しだけ見る目が変わった。
その後、自分の家でシャワーを浴びる時は、怖くて目が閉じれなくなったことは言うまでもない。
とはいえ、実際に僕が怖い思いをする事はなかった。

この後も僕はこの部屋に住み続け、気付けば10年ほど住み続けたが、結局一度も金縛りにすらあったことがない。
思い返せばテレビが勝手についたり消えたり、台所においていた煙草が風呂場に移動していたり、夏でもやたら涼しかったりという不思議な事はあったが、怖いと思う事はなかったのだ。

しかしそんな僕でも、この部屋はやはりヤバいのかも…と思った出来事がある。
大学3年生の冬の事だ。

その日は後輩の誕生日で、当時付き合っている彼女と親しい後輩が僕の家に遊びに来ていた。
三人でこたつを囲んで酒を飲んだりゲームをしたり、とにかく楽しく過ごしていた。

お祝いは深夜まで続き、みんなそれなりにお酒が回っていたのでそろそろ寝ようと支度していると、彼女と後輩が急に同じように天井を見つめて、動かなくなった。
僕も同じように見上げるが、特に何も見当たらない。何してるんだろう…と思いながらも、煙草を吸いながら一緒になってボーっと天井を眺めていた。

すると、僕だけ何も見えないと察した彼女が天井を指さしながら
「あの顔、なに?」
と聞いてきた。

顔…?そんなの見えないけど…と答えると二人とも凍りついたように
「あんなにはっきり見えるのに?」
「機嫌わるそうに見えますけど…」
とつぶやく。
二人が怯えながら指さす天井は、その部屋の中では一番竹林寄りの角だった。

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