恐怖の泉

実話系・怖い話「墓場の火」

僕の地元はかなりの田舎だった。
田舎なので都内では想像もつかないような広さの墓地があり、生きてる人間より多いくらい沢山のお墓があった。
墓地は高台の上にあり、高台の周りは田んぼばかりなので見晴らしもよかった。

この見晴らしの良さが災いしてか、僕の小学校では
「墓場で火の玉を見た」
という噂が絶える事はなかった。
墓地は近くを通る国道からもよく見えるし、小学校の登下校に使う道からも一目瞭然だ。

帰りが遅くなった小学生が帰りに火の玉を見たらしいだとか、車でそばを通った時に墓場で火が浮かんでいるのが見えた、というような目撃情報はそれこそ何度も聞いたし、遅くまで遊んでいる下級生がいれば
「早く帰らないと墓場で火の玉を見るぞ~」
と脅すのは伝統化していたものだった。
そんな、ちょっと怖いけど割と身近な墓場の火の玉の話題は大体は笑い話のようなもので、怖がられるようなものではなかった。

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だが、僕が中学生の時に周りを巻き込む大騒ぎになったことがある。
秋頃、稲刈りが終わって涼しくなりだした頃だったと思うが、墓のあたりで火が出ていると騒ぎになっていたのだ。

火の玉に怖がるのは小学生まで、というほど、僕の地域での火の玉の怪談は聞き慣れたものだった。
本当に見れば多少興奮はするだろうが、聞いただけではまたそれか…くらいで特に新鮮味があるものでもない。
これは周りの大人たちも同じで、墓場の近くで火を見たと聞いたところで
「ああ、またその話ね」
くらいで片づけてしまうような習慣が出来ていた。

ところがその日の墓の火は、火の玉と言えるくらいの小さいものではなく、墓地の周りで火が燃え盛っているのだという。
何人か同じ光景を見た人もいるらしく、火事ではないかと騒ぎになっていた。
田舎の方ならわかるかもしれないが、虫払いの関係などで田んぼ周りの土手を焼き払うようなことはよくあるのだ。
ひょっとしてその火が墓まで回っていたのだとしたら、大火事になるかもしれないと地元の消防隊は様子を見に行ったらしい。

墓を見に行った消防隊が見たのは、腰くらいの高さで煙が出ないのに燃え続ける、不思議な火だったそうだ。
どう見ても何かが燃えている訳ではなく、焦げた臭いもなければ、熱も感じなかったらしい。
結局、消防隊が墓地に到着して何も出来ないまま、20分ほどで火はいつの間にか消えた。

なぜそんなことが起こったのかはわからないが、その年の終わりに村の老人たちは連れ立つように何人か亡くなった。
「今年はやけに連れて行かれた」
と祖父が言ったのはたまたまだったのか、それとも墓場の火に関係あるのか…。知る術はないのだが、何かの因果があるのではと思わせる出来事だった。

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燃え盛る謎の火に包まれた墓場の様子。

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