恐怖の泉

実話系・怖い話「誘ったのは、誰?」

これは大学の先輩に聞いた話。
先輩が高校生の頃に、仲間と連れだって近所の廃屋に忍び込んだことがあるらしい。

その廃屋は小学校からそう遠く無い場所にあり、背の高い塀に囲まれて、内側はさらに背の高い竹が伸びあがり周囲を見下ろしていた。
昔は小金持ちの家だったとか、公民館の様なものだったとかいろいろと言われているが、共通して囁かれる噂があった。
それは
「夜遅くにその塀の中から大勢の人間の声が聞こえる」
というものだ。

先輩たちはその噂の真相を確かめに行ったそうだ。

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時季は夏、時刻は二十時を過ぎ、煩く飛び回る蚊に刺されながら先輩たちは敷地に忍び込んだそうだ。
背の高い壁ではあるが、肝心の門扉が壊れているため侵入は難く無い。壊れた木戸の隙間から入って行くと、伸びきった雑草が膝まで覆い、足元は全く見えない状態。

草を踏みながら進む先に、件の廃屋がある。
懐中電灯で照らしてみると、雨戸は閉じられて玄関と思しきドアには板が打ち付けられている。
用意していた工具で板を外して家の中へ入る。家の中は小ざっぱりとしていたそうだ。

リノリウムの床には埃がつもり、広い廊下の先には大きな部屋があり、壁には待合室と書かれている。
フェイクレザーのソファが幾つか並び、椅子の先にはカウンターテーブルの様なものがある。テーブルに向かって右手に木製のドアが半開きになって、壁には診察室と書かれていた。
廃屋の正体は、どうやら昔の診療所だったようだ。

「病院だ、やべえ」
と小声で騒ぎながら先輩たちが診察室に入ろうとすると、ふと背後に人の気配がしたそうだ。

それも一人じゃない、二人でも無い。

咳ばらいが聞こえた、溜息が聞こえた、苦しそうな息遣いが聞こえた。

誰とはなく振りかえると、真っ暗だったはずの室内がなぜか真昼になって、ソファに何人もの老人が座っていたそうだ。
苦しそうに咳をする老人、和やかに話をしている老婆たち、その間をナースが歩いて話しかけている。

突然の事に思考が追いつかず、ただただそこに突っ立っていると、カウンターの内側から
「次の方どうぞ」
と声がかかり、診察室から若いナースが先輩たちを手招きしていた。

先輩の友人がふらりと一歩踏み出したとき、急に嫌なにおいが鼻を突いたそうだ。
強烈な鉄錆の匂い。
その匂いで我に返り、逃げ出そうと再び視線を待合室に戻すと辺りは真っ暗、しかし濃密な人の気配が…。

先輩たちはわけも分からず大声をあげて、逃げ帰ったそうだ。

特に怪我人も無く帰って来られ、その後祟りと言うような物も無いそうなのだが、一つ気になってる事があると言っていた。

「誰が廃屋探検を言い出したか、誰も覚えてないんだよ」

廃屋に呼ばれてたのか、それとも忘れられたもう一人がいたのだろうか…。

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