実話系・怖い話「車の上の何か」
自転車通学がしたくて、高校は自宅から少し離れた物を選んだ。
中学校は家から五分もかからない所にあったので、自転車通学には憧れていたが、実際にやってみると毎日面倒な事この上なく、すぐに飽きてしまった。
そのうえ雨の日を考慮に入れておらず、雨が降ると苦手なバスに乗っての通学となってしまった。
私は乗り物が大の苦手で、バスはタクシーの次に酔いやすい。
その日も雨が降る中、始発のバス停から乗り込み、気持ちの悪い振動に身を任せ外を見ていると、隣を走っている車の屋根に黒くボヤっとしたものが見えた。
なんだろうかと眺めていると、黒い物は次第に形を整え始め、手足の細い人間の様なものになった。
ヤマアラシのような毛を頭から背中に生やして、隣の乗用車に脚でしがみつき、両手で乗用車の屋根を叩いている。
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朝から嫌な物を見たなと、視線をそらそうとした時に運悪くソレがこちらに気づいた。
次の瞬間、私の座る席の窓が外からバンバンと叩かれる。さっきの奴がバスに飛び移ったんだと思った。
窓に見えるのは細長い黒い腕、その腕が窓を叩いている。
他の乗客にはその腕が見えていないようで、音が鳴る窓を一瞥してから各々に視線を落としている。
窓の上から、黄色い目をした赤ん坊の様なしわくちゃの顔が降りて来て目を合わせようとしてきた。
悪意そのものと言うような、ニタニタしたいやらしい笑みを浮かべていたが、そこで顔の動きは止まる。
恐る恐る見てみると、苦しそうな顔をして、ずるずると前の方に消えてゆく。
消えていく方向を見ると、先ほどソレがしがみついていた乗用車が前方の交差点を右折していくところだった。
乗用車とバスの間に黒い帯状の物が見え、しばらくすると限界まで伸ばしたゴムを手放したようにソレが乗用車の方へすっ飛んで行った。
途中で道路標識に当たっていたように見えたが、あれらはどうやって物に干渉しているんだろうな。
当時はオバケか何かかと思っていたが、いまなら全部妖怪だなと片づけてしまえるから良い時代になったと思う。
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