恐怖の泉

実話系・怖い話「正座する女」

オバケや幽霊の類っていうのは、目の端っこで見るって聞いた事があるんだよ。
たしかに電車を待ってたりすると、こう、視界の端の方で人が動いたような気配があって、なんとなくそっちを見ると誰も居なかったりするんだよな。
その時は、ああ見間違いかって思うんだけどね。
個人的に思うのは、目の端だろうと真正面だろうと、見る時は見ると思うんだ。

ずっと昔、まだ幼稚園だった頃、公務員住宅に住んでた。

住んだことのある人なら想像つくだろけど、あれって大体どこの団地も間取りがほとんど同じなんだよ。
玄関から入ってすぐに廊下があって、どちらかに行くとお風呂場、反対に少し大きめの部屋があって、その部屋がキッチンや、もう一つ二つ別の部屋と繋がっている。
それとは別に、他の部屋とは直接つながらない独立した六畳間がある。住んでた部屋にも勿論あった。

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うちではその部屋に文鳥のケージを置いてた。
親父が文鳥好きで、何羽か飼育してたんだよ。それを見るのが好きで、その時も文鳥の様子を見に行った。

休日の昼間で、天気は晴れだった。幽霊が出るような要素がまるで無い。
文鳥の部屋に入ると女の人がこちらに背を向けて正座していた。

文鳥を見るわけでも無く、こちらを気にする風でも無く、ベランダに続くガラス戸に向かって背筋を伸ばして正座している。
背中まである髪をハーフアップにしてたな。

当時、父さんと母さんが喧嘩すると、その六畳間に母さんが引っ込んでしまっていたので、その時もたぶん喧嘩したんだろうと思って、気にすることなく文鳥と戯れてた。
普段の何気ない日常だったが、なぜか頭によく記憶していた。

それから随分時が経ってから親戚が集まることがあり、アルバムを引っ張り出して昔話に花を咲かせていた。
幼稚園の頃の写真もあって、この頃は小さくて可愛かったのにな~とか嫌味を言われつつ見ていると違和感がある。
写っている母さんはどれもショートカットなんだ。

母さんに聞いてみると、この頃に妹が生まれていて、赤ん坊の面倒を見るのに長い髪は邪魔だからと、出産前に切ってからずっとショートカットだと話してくれた。

じゃああの時、文鳥の部屋で見た長い髪の女性は誰だったんだろうか?
もしあれが幽霊なら、やっぱり目の端だけでなく、真正面に堂々と見える物なんじゃないかなあ。

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