恐怖の泉

後味の良い怖い話「老婆の宣告」

これは、母から聞いた話です。
私の母はごく普通の主婦です。本人曰く、霊感などとも縁も無く、ちょっと我がままでネガティブになりやすい性格ではありますが、至って平凡な日常を送っております。

私には、兄がいるはずでした。
というのも、兄は生まれてすぐに亡くなったと聞いております。
当然家には仏壇もあり、毎回お彼岸には必ずお参りにも行きます。

その兄が生まれる少し前、夢に見知らぬ老婆が現れたそうです。
その老婆は妊娠中の母の腹部を撫でながら「可哀相にね、可哀相にね…」と、何度も繰り返したそうです。
母は怖くなって、目が覚めたそうです。

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それからしばらくして、陣痛がきて予定日よりも早かったこともあり、帝王切開で出産することになりました。
ところが、生まれた兄は泣くことは無く、この世に誕生してたった数時間という本当に短い生涯を終えました。

当然母は悲しみましたが、父や周囲の慰めと説得により、2人目(私)を生むことを決めたそうです。

ところが、同じ老婆かはわかりませんが、私が生まれる少し前にまた母の夢に老婆が現れたのだそうです。
今度は、少し離れた場所から決して母に触れることはせず「可哀相に、可哀相に…」と言っていたそうです。
母はぞっとしたそうです。
何に対して”可哀相”というのかわからず、すぐに目を覚ましました。

それからしばらくして、同じように陣痛がおき帝王切開で私を生んだそうです。
兄と同じように生まれてすぐには私も泣かなかったそうですが、スタッフ様の尽力によりなんとか生きることが出来ました。

「あぁ、やっぱりアレはただの夢だったんだ…」

母はそう思ったそうです。

ですが、見た目にはわかりませんでしたが、既に老婆の言葉は現実となっていました。
3ヶ月検診で、私は先天性の心疾患を抱えていると診断されたのです。
現代医学では決して不治の病というわけではありませんが、生きていくうえで私は、普通の人よりも枷が多くなりました。

その後弟も生まれましたが、弟の時には老婆は現れなかったそうです。
代わりに、次に老婆が現れたのは、私の高校受験の前だったそうです。

兄や私が生まれる前とは違って、老婆は安堵したように母に告げたそうです。
「良かったね、これでうまくいくよ」

私の志望校は市内でも有数の進学校でした。
過去に二度も子供に降りかかる現実を言い当てた老婆の言葉を聞いて、母も「きっとこの子は受かるんだろう」と、思っていたそうです。

ところが、私は受験に失敗しました。

当然母はがっかりしましたが、その時私は学校で虐めにあっていて、不登校気味でした。
成績はさほど悪くないので、受験自体は問題ありませんでしたが…私が落ちたその進学校には、虐めていた側が何人か受験を希望し入学していました。
もし、あのまま私が合格していたら同じことが繰り返される可能性は高かったことでしょう。

滑り止めで合格した高校では、今でも友人と呼べる存在に出会い、順風満帆とは言えませんがそれなりに充実した学校生活を送ることが出来ました。
私が高校を卒業するときに、母はあの時の老婆の言葉はこのことを指していたのだと、ようやく気づいたと言っていました。

最近ではそういった大きな出来事はありませんでしたので、老婆に出会うことはなくなったのだそうです。

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