恐怖の泉

実話系・怖い話「ペスト」

ペストはペスト菌という細菌に感染することで起こる、人類へ猛威をふるっている伝染病の一つです。
現在では治療方法が発見されてはいますが、高い感染力と致死率で症状の進行も早く、感染が確認されたら早期に手を打たなければ甚大な被害が出る可能性があります。

日本においては1926年を最後にペストの国内感染は確認されていませんが、世界的には今でもアフリカ、アジア、北南米の山岳地帯や密林地帯で感染が報告されており、毎年2,000人前後の患者が発生しています。特にアフリカ大陸は感染者数が多いです。

感染経路

ペストは野ネズミなどの齧歯類(特にクマネズミ)で流行する病気ですが、ネズミノミを介して人間にも感染します。稀に猫、犬、豚、羊、ウサギ、猿などへ感染する場合もあります。
野ネズミが頻出したり、衛生管理が粗雑な所等でペストは流行し、ネズミが大量死した後、人への感染が広がる傾向があります。
またシラミを介してペスト患者から他人への感染も有り得るのではないかという研究報告もあり、注意が必要です。

ペストの人への感染力はとても強く、後述しますが過去にも何度か大流行を引き起こしました。
感染者の体液に触れた場合でも感染しますが、特に怖いのは肺ペストを患った場合です。肺ペストになると咳などで容易に飛沫感染し、爆発的に感染が広まる危険性があります。

余談となりますが、ペストの他にも世界的な大流行を起こした感染症にはインフルエンザ、天然痘コレラなどがあります。

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症状

ペストは菌の感染部位によって症状に違いがあり、「腺ペスト」「ペスト敗血症」「肺ペスト」に分けれらます。

最も多い(感染者の8~9割)症状が腺ペストで、リンパにペスト菌が感染して発症します。
潜伏期間(感染から発症まで)はおよそ2~7日程度で、発症するとリンパ節が痛みとともに大きく腫れ上がります。菌はその後全身に感染・繁殖して高熱、頭痛、倦怠感といった全身性の症状が現れ、3~4日後には敗血症へ移行し意識混濁となります。肺ペストへ移行する場合もあります。
治療をしない場合は、発症後1週間くらいで40~90%の患者が死亡します。
ペストによる敗血症は、内出血を起こして体が黒色に変色します。これがペストを別名「黒死病」と呼ぶようになった所以です。

ペスト感染者の約10%は、最初に血液がペスト菌に侵されてペスト敗血症になります。
特に目立った症状がないまま症状が進行し、気付いたら全身に内出血による出血斑が生じます。ショック症状、昏睡、手足の壊死、腹痛等を引き起こし、2~3日後に死亡します。

肺ペストはその名の通りペスト菌が肺に感染して起こり、最も危険で症状も劇的です。
通常の感染(ノミから人の段階)から起こることは稀ですが、腺ペスト・ペスト敗血症から肺ペストへと移行することがあります。
肺ペストになってしまうと、咳などを介して容易に他人へ肺ペスト感染が広がってしまいます。
肺ペストになると潜伏期間半日~3日後に頭痛、嘔吐、高熱、気管支炎や肺炎、血痰が出ます。やがて重度の呼吸困難に陥り、死亡します。
発症してからは即刻で治療をしなければ、おおむね24~48時間以内に患者は死亡してしまいます。その致死率は100%という恐ろしい病です。
ちなみに肺ペストのみの感染では、黒死病特有の皮膚の変色は起こりません。

他にも稀ではありますが皮膚ペスト、眼ペストという軽い症状もあります。この場合は1週間ほどで回復するとされています。

治療・予防方法

ペストは致死率が高く、伝染性も高いので恐れられていましたが、現在では発症後であっても早期(発病後24時間以内)に抗生物質による治療を開始すれば回復できます。治療をした場合、死亡率は15%以下にまで低下します。
肺ペストを筆頭に、病状の進行が早いので迅速な対応が重要です。

予防方法としては、まずペストの流行地域に足を踏み入れないことが第一です。そしてなるべくネズミを生活域に侵入させない、野ネズミの生息場所や死骸には近づかない、ノミ等の吸血昆虫類に刺されないよう注意することが重要です。
万が一ペストの発生地域で感染者と接触した場合には、予防のために抗生物質を投与します。特に激しい咳をしている方には注意が必要です。
日本に住んでいるなら心配はいりませんが、海外のペスト発生地へ赴く場合は医療機関や厚生労働省へ相談するのが良いかもしれません。
ちなみにワクチンはあるにはありますが、安全性や効果には疑問があり実用化には至っていません。

ペストの流行

歴史に記録されている最初のペスト大流行は、西暦542年ごろにエジプトで発生しました。
流行は北アフリカ、ヨーロッパ、中央および南アジアで拡大して半世紀以上続き、およそ3,000~5,000万人、当時の人口の半分以上がペストにより命を落としたと考えられています。

14世紀になると、再びペストの大流行が記録されています。この時はヨーロッパを中心に世界的にペストが拡大し、その病状から「黒死病」を呼ばれ恐れられました。
この流行により、ヨーロッパの人口の3分の1に当たる2,000~3,000万人が死亡、世界では8,000万人以上もの方が犠牲になったとされています。
その後も流行は何度か発生し、17世紀になるまで続きました。

19世紀には中国でペストが発生し、そこから3度目の世界的大流行が始まりました。
この時最も被害を受けたインドと中国では、1,200万人以上が亡くなりました。

日本においてはペストの感染が発生したのは1896年のことで、その後1926年まで感染が続き、患者数2,905人の内2,420人が亡くなりました。
ペストは日本では発生していなかったのですが、輸入された品(インドからの綿花が有力)にネズミが紛れ込んでいて感染が広まりました。
この時はペスト菌の発見者である北里柴三郎を中心に、日本政府がペストネズミの撲滅等で積極的に対策を行ったため、ペストが日本に定着する前に根絶することに成功しています。

FORTH|厚生労働省検疫所

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ペストマスクを着用して、ペスト患者の対応をする医師達。

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