恐怖の泉

人間の怖い話「頼りにしていたB」

これは私の親戚から聞いた話です。

A(仮称)は、40代前半の女性でシングルマザーでした。
息子が小学生の頃に夫とは死別し、それからというもの女手一つで子育てをしていました。

息子は明朗快活な子だったのですが、中学生の頃に進路のことや病気がキッカケで精神を病み、反抗期も重なってAに暴力を振るうようになり、学校も不登校気味になったそうです。
夫がいない不安や息子からのDVに強いストレスを感じていたAですが、学校では2年時よりクラス役員を任されていたので、精神的に休まる暇もなかったと言います。

息子は3年生に完全な不登校になっていましたが、Aは成行でクラス役員を引き続き行うことに。行事の話し合いのために、定期的に学校へ足を運んでいたようです。

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Aは人当たりがよく、責任感が非常に強いので役員の中でも一目置かれていました。
役員の集まりの中でも段々と親しい人もできていて、中でも一番仲がよかったのは役員長のBでした。

BはAよりも5歳ほど歳上の女性で、Aと同様家庭環境があまりよくないこともあって、親近感を抱いていたとのことです。
Bはおっとりした性格で人の話を聞くのが上手く、ややクセはあるものの包容力があるため、日頃警戒心の強いAも彼女に対しては殊更心を許していました。

AはBに色々な相談をしていました。
本当は夫が亡くなってから1人でいるのが辛い、頑張って育てた息子に暴言を吐かれ殴られるのが辛い。
他の役員やママ友は普通の家庭でしたから、そうした方々へ自分の苦境の愚痴をこぼすのは憚られたのでしょう。
Bも夫とは離婚しているシングルマザーでしたので、共感しつつ一緒に気晴らしをしたりしてAの支えになっていたそうです。

Aの息子が中学を卒業し、通信制の高校に通うようになってからも、AとBの個人的な付き合いは続いていました。
休日にはランチをしたり買い物をしたり、毎日のようにラインで話したり。
息子の反抗期もまだ続いていましたが、Aの両親は昔の人なので何事も根性論。我慢こそ美徳と考える悪癖があり、Aの力にはなりませんでした。
必然的に、自分と共通点が多くただ共感して励ましてくれるBに居心地の良さを感じて、Aはすがることになります。

そんなある日、Aの元にBからランチへ誘いのメッセージが入りました。
いつもは近くのファミレスから店を選ぶのですが、この時は
「少し遠い店に行ってみない?」
と提案されたそうです。
新鮮で違うお店もいいかなと思ったAは、何も疑問に持たずOKしました。

Bの車でお店に行き、ランチの締めのデザートを食べていた時。
「Aは独りで辛いなって思うことある?」
Bが口を開きました。
「そりゃあるよ!」
とAが言うと
「じゃあ、何か信じているものってある?」
とBは言います。
Aは質問の意図が分からず、「特に何もないけど…」と答えます。
「まあこんなご時世だもんね…」
それから取り留めもない話をしてランチを終え、店を出ました。

ところが、Bが車を走らせたのは家がある方向とは全く別の道です。
「こっちに何かあったっけ?買い物でも行くの?」
「ああ、ちょっとね。目的があって…。」
それから10分ほど経って、とある曲がり角を曲がりました。

(この辺って確か…)

そこは国内でかなり力を持っている、某カルト宗教の集会場がある所でした。
「Aが生きづらさを感じているのは、信仰を持たないためだと思うの。」
Bは集会場の門を通過しながらAに言いました。

「Aの悩みを何年も聞いてきたけど、これは私だけの力じゃもうどうしようもできないから、入信して○○様に楽にしてもらおう。」

Aは初めて、自分がハメられたことを悟りました。
同じような人を見つけて味方だと信用させて、仲良くなったところで迫れば入信してくれるだろう。それも教団の敷地内に強制連行してしまえば尚のこと。
きっとBはそんな風に思っていたのだろうと、後にAは言っていました。

「案内するよ、こっち。」

車から降りた瞬間、AはBの隙をみて大急ぎで走って逃げました。
集会場とAの実家がすぐ近くにあったのが幸いでした。
その後、AはBの連絡先を全て消去し、今現在に至るまで一切の交流がないそうです。

それから息子の反抗期も落ち着き、話のネタにこの話をAは息子にしたそうです。
息子は
「そのまま入ってたら、もう帰ってこれなかったかもね。帰ってきてくれてよかった。あと昔は色々迷惑かけてごめん。」
と言ってくれたそうで、今では信頼できる親子の絆を築いているそうです。

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