恐怖の泉

実話系・怖い話「化け狸」

これは私の祖父から聞いた、まだ戦時中だった頃の話です。

祖父は既に他界していますが、この話は私の一族なら皆が知っている様な、一つのすべらない小噺と言った所です。
私の祖父は若い頃国鉄の機関士をしていました。分かりやすく言うとSL汽車の運転士です。
幸いにもこの職業に付いていたおかげで、徴兵される事はなかったみたいです。
場所は長野県の田舎ですが、毎日汽車を運転していたようですね。

当時は物資もありませんし、汽車の利用と言っても一般の人は限られていますから比例するように線路も少なく、それはそれは今と違い簡素な物だったそうです。
ある線路に至っては単線とでも言いましょうか、いわゆる一本しか無いレールを時間の調整のみで、上りと下りの汽車がぶつからない様に配慮していたようです。

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ある日の事、祖父が運転する汽車がこの単線を上っていると、遠方から同じ線路をこちらに向かって来る汽車が見えます。
それはもう一大事です。
主に祖父が運転していたのは貨物車なので多くの乗客が乗っている訳でもないですが、正面衝突したら大ごとになる事は火を見るより明らかです。
一気に気が動転した祖父はあわあわと汽笛を鳴らしたり、ブレーキをかけたりしましたが間に合いません。
そしてもうすぐ衝突!となった瞬間、人間の本能と言いましょうか。顔を覆ってうずくまる事しか出来なかったそうです。

しかし、その状態のまま覚悟を決めていても不思議と何も起きません。
衝突の衝撃がある訳でもなく、当たりをつんざくような大きな音がする訳でも無い。
不思議に思い恐る恐る上体を起こして運転室の窓から前方を見ると…さっきまで目の前に迫っていた汽車の影も形もありません。
いつもと変わらない単線の風景、そこにいるのは祖父だけです。

「不思議な事もあるもんだなー」
そう思ったらしいですが、特にその後は何事も無く生活を続けていました。
しかし何日かすると、同僚の人の中にも同じ体験をした人が沢山出てきました。

やはり皆口に出すとからかわれるのが嫌なのか、総じて口調は重かった様です。ですがまったく同じディティールを体験した人が何人もいるとなると、これは放っておくわけには行かなくなりました。
早速、同僚の方々を集めて簡単なミーティングが行われました。
傾向と対策を含め、最終的には次回誰かが遭遇した時には何かして見ようと言う事になった様です。
とは言っても専門的な解決策が出るわけでも無く、最終的に出た一つの方法としては
「次前方から汽車が迫って来る事があったら、顔を伏せずに突っ込んでみる」
ということだったそうです。
皆一様に衝突の間際はうずくまってしまっていましたから、そこを勇気を振り絞って逆に突っ込んでみたらどうなるか、と言うわけです。

その日はそれで解散し、又何日かは平穏な日が続きました。
皆がそんな特異な体験を忘れかけていた頃、いつもの様に単線を祖父が運転していると出ました。前も遭遇した、前方から来る謎の汽車です。
やはりその瞬間は非常に嫌な汗が出て、生きた心地がしなかったそうですが、同僚の方々との約束を覚えていた祖父はそのまま速度も落とさずに突っ込んでみる事にしました。
距離にしたらおよそ100メートル、50メートル、25メートルと段々近づいてきます。
もうくだんの汽車は目の前です。
祖父は覚悟を決めて目を見開いたまま突っ込んだそうです。

すると…不思議な事にぶつかったと思った瞬間、謎の汽車は消えてしまいました。
煙の様に等と言う感じでも無く、それこそ一瞬でパッといなくなったそうです。
こうなると謎は更に深まります。恐怖とは又違った気持ち悪さがあったようです。

そのまま本部に帰った祖父は同僚の方々に今体験した事を話しました。
その日はもう日が暮れていたため、明日皆でその現場に行ってみようと言う事になりました。
日が変わり、約10人程で昨日祖父が謎の汽車と遭遇した現場に向かいました。
すると皆の眼を引く物が線路上にありました。

それはかなりの歳をとった大きな狸の死骸だったそうです。
その腹部は大きく裂かれていて、事故に巻き込まれた事が分かる様な有様でした。

お分かりでしょうか…。狸が汽車に化けて祖父たちを驚かせていたのだというのです。

私は祖父からこの話を聞いた時、とある質問をした記憶があります。
些細な事ですが、「何故歳をとった狸だと分かったの?」と言う内容でした。
一般の人がパッと見で、老いた狸かどうかはあまり判別がつかない気がしたからです。
すると祖父の答えはこうでした。

「髭が異様に長く、全身の毛は白髪で真っ白。尾が二つに割れていた。四本足の動物は長い間生きていると尾が分かれて人を化かすんだ。」

よく息の長い物や生物が、年老いて化ける・変化するという話を聞きますが、そういう事もあるのかなと思わせるような話でした。

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