恐怖の泉

実話系・怖い話「部屋にいた」

怖い夢を見るということは誰しも経験のあることだと思いますが、あの夏の夜の出来事は今でも異質に感じます。
その当時、私は東京のアパートで暮らしていました。今考えても何だったのかわからない体験です。

寝ている私は遠くで聞こえる音に目を覚ましました。
最初は猫の鳴き声かと思っていましたが、よく聞くとそれは「赤ちゃんの泣き声」なのです。
近所の小さなお子さんが夜泣きしているのかな、と深くは考えずに私はまた眠りにつこうとしました。
しかし、その声はだんだんと近づいてきているような気がするのです。

当時私が住んでいたはアパートは古かったので壁も薄く、中の音も外の音もよく漏れてくるので、この段階で私は少しも「霊」の存在を疑いませんでした。
言い換えるならば、ちっとも怖いとは思わなかったのです。

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寝返りを打ち、時計に目をやると深夜の2時をまわったところ。あと4時間は寝れるなと呑気にアクビをした時、赤ちゃんの声が明らかに大きく響きました。
さすがに何事かと思い、ベットから上半身を起しました。

すると有り得ないことに、部屋の真ん中に赤ちゃんがいるのです。
生後間もない子どもが入るカゴのようなものに入って、ワンワンと泣いているではありませんか。
夢なのか?いや私は完全に起きている、瞬時にそう確信しました。
でもなぜ私の部屋に赤ちゃんがいるんだ?
部屋の鍵は間違いなく閉めているし、誰かが置いたのか…事件か?
この段階でも、私は「怖さ」を感じる訳でもなく、ただ驚いているばかりでした。
どうしよう、どうしようと私はベットの上から赤ちゃんを眺め、この意味不明な状況を理解しようと必死でした。

その時です。
視界の隅で捉えた部屋の角に、髪の長い女性が立っていることに気づきました。
その女性はジッと泣き続ける赤ちゃんを見つめていました。年齢は30歳くらいでしょうか。異常なほどにまばたきを繰り返しながら、ただ泣く赤ちゃんを見て佇んでいるのです。

ここまできて、ようやく私の背筋は凍りつきました。霊感なんてちっとも無かった私でしたが、この状況の異常さはそう考えるしかありません。
まずい。とんでもないものを見ているぞ!
心臓は破けんばかりにドキドキしていましたが、不思議と頭は冷静でした。

まずは部屋を出よう、そう決めました。赤ちゃんはさっきに増して大きな声で泣き叫んでいます。
するとベットから降りようとしたその時、その女が一歩、また一歩と赤ちゃんのほうに歩いて行ったのです。私は見守ることしかできませんでした。
赤ちゃんの近くまで進んだ女は、そのまま抱きしめるわけでもなく赤ちゃんをまたじっと見ています。

そして次の瞬間、女が私の方に向いて移動してきました。一歩、また一歩と私のほうに進んでくるではありませんか。

私はその後気を失ったようで、気づいてみたら朝になっていました。
やはり夢だったのかな…と思いつつ、顔を洗おうとベッドから降りてみると、部屋の真ん中に長い髪がまとまって落ちていました。

この後もその部屋に長い間住み続けましたが、その女性と赤ちゃんを見たのは最初で最後です。

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