恐怖の泉

実話系・怖い話「親切への報酬」

ある町に住んでいたKさん(仮名)という、一人暮らしのお婆さんが亡くなった。

身寄りのなかったKさんは近くのお寺の無縁仏に葬られたが、生前は誰にでも親切な世話好きお婆さんで、近所では評判だった。
そのため、亡くなってからしばらくしても故人を偲ぶ話が絶えなかったそうだ。
しかし人の噂も七十五日と言われる通り、次第にKさんのことは忘れられ、話題にもあがらなくなっていった。

ある日、同じ中学校に通う女子中学生3人が集まって勉強をしていた。
そこで雑談として、通学途中で財布を無くした時に、たまたまその財布を拾ったKさんが財布の中の物を手がかりにして、女子中学生の元へ無事財布を送り届けてくれたことがあった、と話をしていた。

「Kのお婆ちゃんのお陰で助かったんだよね」
当時を思い出しながら言うと、どこからともなく
「だったら私も助けて~」
と震えるような声が聞こえて来た、というのである。

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その声を聞いた3人は
「何か聞こえた?」「誰?」「助けてって言ったよ」
とパニックに陥った。
財布をKさんに拾ってもらった女子中学生は
「もしかしてKのお婆ちゃん?」
と尋ねてみると、今度は部屋のドアが2回ノックされた。
3人は「キャー!」と叫んで恐怖のあまりお互い抱き合った。
恐る恐るドアを開けてみたが、そこには誰もいなかったそうだ。

この恐怖体験は女子中学生の親を介し、噂として広まった。
すると話を聞いた人の間で
「Kのお婆ちゃんに世話になった」
と言うと
「だったら私も助けて~」
と聞こえるとか、「Kのお婆ちゃん?」と呼びかけると部屋の戸にノックが返ってくるという、噂の内容と同じ体験が起こるとして更に広まった。

Kのお婆さんの不思議な現象は、お婆さんに親切にされたり世話になった人が行なうと起こったため、近所では不思議な話から恐怖話へと変わっていったそうだ。
善人として有名だったはずのKさんが、次第に人々を怖がらせるお化けのような存在になっていく。

この噂の元となった女子中学生の親に、警察官のHがいた。
Hは周囲から事態収拾を頼まれ、どうにか出来るとも思えなかったが渋々取り組む事にした。
生前にKのお婆さんと関わりが無かったHは、まずKさんがどんな人物だったのかを調べ始めた。

Kさんの死因は溺死だ。不審な点は無く、入浴中に突然意識を失って溺れたのだろうとされている。
今の土地には比較的最近になって引越して来て、親族は既に全て他界していたが、息子さんもいたようだ。

Kさんの遺品は警察に保管されていたが、その中には何冊か日記らしきものが残されており、誰にいつどこでどんな親切をしたのかが事細かに記されていた。
例えば、女子中学生へKのお婆ちゃんが財布を返却した日にはこう書かれている。

「午前○時△分、×駅にて財布を拾う。財布の中身から住所、●市■区× *丁目▲-○を訪問。午後○時△分、母親へ財布を返却。その後帰宅した娘、Tちゃんからも直接のお礼有。午後○時△分。言葉のみで物品は無。」

Kさんはどんな気持ちで他人に優しく接していたのだろうか…。

親切だと評判だったKさんだが、自身が他人から優しくされた事はあったのだろうか。
日記には、所々に同じ文句があった。
「いつかきっと、自分へ返ってくる」
Kさんの優しさは報われたのだろうかと考えると、何とも言えない無力感が残る。
結局、Kさんは1人で孤独な最後を迎えて行旅死亡人となり、無縁仏として扱われている。
そして「私も助けて」とは、一体どういう意味なのか…。

何も分からないまま、やがて怪異も自然に収束へ向かい、その後2度と起こる事は無かった。

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