恐怖の泉

人間の怖い話「知らない人の車」

これは、私が小学生の頃に体験した話です。

私の通っていた小学校は、家まで30分ほどかかる海沿いの場所にありました。
途中で2車線の大きな道路を通り、海側にある学校へと毎日歩いて通ったものです。
行きも帰りも3、4人の仲良しグループだけで登下校するのですが、流行の話や勉強の話などをしながら歩くのが楽しかった事を覚えています。

小学3年生の夏でした。
いつものように仲良しグループで下校しようと、私は一足先にグラウンドの出口で皆を待っていました。
すると目の前に白い軽自動車に乗ったおじさんがいて、車の窓を開けた状態でこちらをチラチラと見てくるのです。

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そのおじさんは、車のシートに座っていても小柄と分かるほど大人にしては小さく、頭にはロゴの入ったキャップを被っていました。
肌はほんのりと日焼けしており、子供から見ると40代後半から50代前半くらいに見えます。

おじさんは窓を全開に開けたまま、運転席から助手席に体を大きく傾けながら
「あのね、お父さんが怪我をして病院に運ばれたんだよ。おじさんはお父さんの友達だからさ、この車で病院に連れて行ってあげる。」
と言っていました。

突然お父さんが病院に運ばれたと聞かされて驚きましたが、相手は全く会ったこともない知らないおじさんです。
そんな人に「車に乗れ」と言われるものですから、どうしてよいのか分からずその場で足がすくんでしまいます。

そんな時に友達が来て、私と話し合っている様子におじさんは痺れを切らしたのか
「ねぇ、早く行かないとお父さんが待ってるよ!」
と急かすように大声を出します。
それでも私達が何も言わないでいると、おじさんは
「お父さんに子供を連れて来てくれって頼まれたんだよ。」
と私達の気持ちを揺さぶるような言葉を投げてくるのです。

ですが小学3年生の私達は警戒心が出来ていたため、乗ると危険だと感じて動く気持ちにはなれません。
そして話し掛けられてから10分ほど経った所で、おじさんは車を動かしながら
「乗りなよっ!」
と大きな声で言った後、窓を閉めて行ってしまいました。

車の後ろ姿を見ていると、どこか車に乗らないといけなかったのでは、という懺悔の気持ちと、誘いに乗らなくて良かったという複雑な気持ちが交差します。

ところが家へ帰ってみると、両親には何事も無く、おじさんの言った事は嘘だったという事が判明します。
不審者案件だということで学校や交番へ報告をした後、親から「本当に乗らなくて良かった」と何度も言われました。

次の日、学校へ行くと先生から注意の連絡がありました。
「この辺で不審者が子供に声をかけて、車に乗せた事件が起きています。」

先生が説明するその不審者は、小柄のおじさんでキャップ帽を被り、白い軽自動車でゆっくり近づいてきて
「お父さんが怪我をして病院に運ばれたから、送ってあげるよ。」
と声をかけて車に乗せるとのことです。
まさに昨日、私達へ声をかけてきたおじさんでした。
そして騙されて車に乗ってしまった子供が行方不明になっており、警察が捜索中だというのです。

その後、この事件がどうなったのかは記憶がありませんが、犯人が逮捕されて不明だった子も無事に戻っている事を願うばかりです。
あの時、もしおじさんの白い軽自動車に乗って誘拐されていたら…。
今でも全身に鳥肌が立つ思いです。

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