恐怖の泉

実話系・怖い話「迫ってくる男」

これは、私が大学4年生の時の話です。
当時化学系の学部に所属していた私は、卒業論文発表まで3ヶ月を切っており、研究室へ寝泊まりしながら実験を行う日々を送っていました。

その日は私以外の学生はおらず、研究室には1人だけ。
夜の11時を過ぎる頃には、もはや建物に私だけという状況になりました。
ふと時計を見ると、12時半ごろ。
ひたすら実験室で化学反応の実験をしては、フラスコに試薬を添加していました。

スポンサーリンク

研究室の間取りなのですが、パソコンなどで事務作業を行う部屋と、ドラマで見るような実験室が壁を挟み隣同士になっています。
壁にはドアが1つあるだけです。
各部屋には外の廊下へと繋がるドアが付いていますが、これが古いせいなのか開け閉めすると「ギィー」と大きな音がするため、どちらの部屋に居ても誰かが開けたなと分かります。

突然「ギィー」という音が聞こえました。

私はてっきり「先輩か誰かが来たのかな」と思い、さほど気にはしませんでした。
というのも私も含め理系学生は夜型人間が多く、夜12時を過ぎてから来る大学院生の先輩もいるくらいです。
とりあえず挨拶はしておくかと思ってパソコンの部屋を覗いたものの、誰もおらずシーンと静まり返っています。
「あれ?」とは思ったのですが、最近ずっと徹夜続きだったので聞き間違いかな、くらいにしか思いませんでした。

それから1時間くらい経ったでしょうか。
「ギィー」
音がまた聞こえました。

今度こそ誰か来たのかと部屋を覗いても、やはり誰もいません。
2回も異変が起きたので、さすがに私も怖くなり実験を辞めて帰ろうかと考えます。
しかしここで辞めたらまた最初からということもあり、それでは締め切りに間に合いません。
気分転換でもしようかと、自分のパソコンで動画の実況を見て気を紛らわせながら作業を進めていきます。

3時前になって実験結果の確認と片付けを行い、うまくいった安堵感に加えて恐怖心も薄れてきました。
あと少しで朝を迎えるのなら、このまま研究室で仮眠した方が良いなと思った私は、ソファーでブランケットを被り目を閉じます。

どのくらい寝ていたのか分かりませんが、私は「キィキィ」という音で目が覚めました。
何だと思い周囲を確認すると、真っ暗な部屋で作業着のようなものを着ている男が座っていました。
状況が呑み込めない私は、緊張で硬直します。
するとその男は立ち上がり、ドアを開け廊下へ出ていきました。

私は勇気を振り絞りって
「オイッ、待たんかい!」
と叫んで後を追いますが、男の姿はどこにもありません。
廊下も真っ暗だったので、明かりを点けるべくスイッチを押そうと階段の方に向かって歩きます。
すると廊下の奥で何か動く者が見え、目をこらすとあの男が立っていました。

私がギョッとすると同時でした。
その男は私の方に向かって歩いてきます。
いや、歩くというより滑るような感じで、スーっと結構速いスピードで迫ってくるではありませんか。

私は逆方向に向かって走り、普段は使わない非常階段を駆け下りてアパートに逃げ帰ると布団にくるまって震えていました。

朝になって9時頃に研究室へ戻ると、何事も無くいつもの日常でした。
私は先輩に夜中にあったことを話すと、そのような男を目撃した人は他にもいて、先輩の先輩にあたる方も分析機器の前に立っている作業着の男を見たのだそうです。

その後、私はどれだけ忙しくても夜の9時前、他の学生がいる間に帰宅することにしました。
卒業式のコンパで教授に男の話をしたところ、大学は元々炭鉱があった場所に建てており、そこで亡くなった方なのではないか、と言っていました。

スポンサーリンク

TOP