恐怖の泉

後味の良い怖い話「祖母の不思議な話」

これは私の母方の祖母から聞いた実話です。

子供の頃は、夏休みや春休みの長い休みにはいつも母方の実家に預けられ、田舎ならではの自然の中でそれぞれの季節を楽しく過ごしておりました。
いまでは国際空港がすぐそばに出来上がり、当時の牧場の姿はすっかり様変わりしてしまいました。それでもその場所を訪れると不思議と時間の止まったような、子供の頃に聞いた静けさの中に引きずり込まれるような不思議な感覚に襲われます。

私が小学3年生の夏休みのことでした。
毎年田舎でお盆を迎えていたのですが、例年は釣りやかぶと虫取りにと遊んでくれた伯父がその夏は大変忙しく、家で毎日一人遊びをしている私を可愛そうに思ったのでしょう。
祖母が私に、お盆の設えの一緒にしようと誘ってくれました。
夏の暑い日中でしたが、風とおしの良い田舎屋のせいか不思議と不快感はなく、むしろ心地よい風が家の中を渡っていくのを子供心に風流に感じていました。
祖母はナスやらきゅうりやらで、器用にお盆のお祭り用具を作っていきます。見よう見まねで私もやってみるのですが、なかなか上手くいきません。
しばらく無言のままそんな時を過ごしていたのですが、静かに祖母が話を始めたのです。

スポンサーリンク

「あれは、正作(伯父の名前です)が戦争に行って、2回目の夏だったなぁ…。」

私に聞かせる風でもなく、一人語りのように祖母が話します。

祖母は、男6人女3人の子供のうち男5人を戦争に送り出したそうで、長男の伯父が戦地に行った際は毎日のように戦死の知らせが来ないのを祈っていたそうです。
そしてその日も丁度、今のようにお盆の支度をしていたのだとか。
準備が終わると、仏壇の前にはお供えものがすっかり並べられ、お盆ちょうちんが左右あわせて6個、仏壇には飾りろうそくが2対設えられました。
今年も無事にご先祖様のお迎えの準備が出来たと安心していると、誰かが店(店売りの米や落花生を扱っていたので)の入り口をガラガラっと開ける音に気づき、「いらっしゃい」と応えながら店の入り口へ向かいました。
するとそこには、白い浴衣を着た伯父が立っていたそうです。

戦地にいるはずの伯父がどうして?と思っていると、裸足の伯父は設えたばかりのお盆提灯の灯を
「もったいない、もったいない」
といいながら一つ一つ消していくのだそうです。
提灯の灯を消し、最後に仏壇の飾りろうそくの灯を消すと、祖母のほうに向き直り深く頭を下げ、入ってきた入り口へ歩いてスゥッと消えたのです。
その時祖母は、ただただその伯父の姿を見守ることしか出来ず、消えた後しばらくたってから伯父の安否が心配でたまらなくなったそうです。

やがて戦争も終わり、伯父は無事に祖母の元へ帰ってきました。
その年のお盆のことが頭を離れなかった祖母は、伯父にこの話をしたそうです。
すると伯父はちょうどその年の夏、戦地でマラリアにかかり、白い浴衣を着せられて生死の淵をさまよっていたのだというのです。

祖母は既に他界してしまいましたが、いつも嬉しそう(少し自慢げでもありました)にお盆で集まる度に孫たちに聞かせてくれていました。

この話を覚えていた私は、真偽のほどを大人になってから伯父に聞いたことがあります。
するとこの話は事実で、伯父は病で苦しんでいる間中、ずっと日本に残してきた祖母のことを憂いていたのだそうです。
強い思いがあると、こんな不思議な体験をすることもあるのかと思うと、なんだか幽霊がいてもおかしくないのかなと感じた話でした。

スポンサーリンク

TOP